T君に捧ぐ
少年は空を翔る夢を見た
だが彼の翼は空を自由に翔るにはあまりに脆く、未熟だった
回りは彼をいさめ、つつがない人生を送るよう薦めた
それが彼にとって何よりよい選択であることは彼にもわかっていた
でも彼はある日自分の翼で飛ぶことを選んだ
小さな後悔とそれに伴う恐れは空から見る景色で吹き飛び彼は初めて為す事の喜びを知った
雨も風も稲妻さえも彼は周りに楽しいともらした
彼の翼は次第に鍛えられ元の彼のひ弱な翼には見えなくなっていた
今日は山の高さを飛び、明日は橋の下をくぐった
宙返りも急降下も思いのままに思えた
翼は無理をした
翼はある日唐突に破局点を迎えた
彼がいなくなった空は今も変わらず風が舞う
ときおり木立がこすれあって音を出すのは彼を呼んでいるのかもしれない
ときおり強く吹くのは彼を探しているのかもしれない
ときおり降る雨はいなくなった彼のため空が涙しているのかもしれない
時の移ろいの中で彼のことは忘れ去られ、日々の営みは何の変哲もなく無為に過ぎる
だが空は知っているのだ かつて空を翔る夢を見た少年のことを
だが風は知っているのだ かつて風を友達に遊んだ少年のことを
だが稲妻は知っているのだ かつて稲妻さえも楽しんだ少年のことを
あえて僕は涙を流さずにいよう、短くも輝いた少年のために
涙は彼の輝きを曇らせてしまうような気がするから
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